「あなた、最近何読みました?」第2回:Iさん(62才、男性、編集者、趣味:古文書を読むこと)の場合

今日は先輩編集者のIさんと四ッ谷にある会計士Sさんのオフィスを訪問しました。
数日前、Sさんが最近脱稿した冒険歴史小説を読んだ私はその面白さに驚嘆。
「これはぜったい本にすべき!」と決意し、今日の訪問となったわけです。
歴史小説方面に詳しいIさんをSさんとお引き合わせするのも今日の目的でした。


作品の執筆意図や執筆方法など、今後作品を世に送り出すにあたって必要な情報をいろいろと
Sさんに伺ったのですが、彼はこれまで文学賞に応募したこともなく、作家になって印税をがっぽり儲けて、
なんて夢想も無く、ただただ自分の好きなテーマで小説を書くのが無性に好きという実に純粋な方の
ようでした。
でも、面白いものはぜったい出版したい。それが編集者のサガってもんです。


どうやったら最良の形で出版できるか、どの出版社がふさわしいか、これから戦略を練って
出版社をアタックしていく予定です。
この本を書店で偶然買った読者が、あまりの面白さに圧倒される姿を想像すると、
今から顔がニヤけてきます!
あー、もっと作品の内容を言ってしまいたい。
でも、これは秘密秘密。迂闊に漏らすと誰かがどこかで先に本にしてしまうともかぎらないですからね。


さて、無事に打ち合わせが終わって帰り道、あまりの暑さに駅までたどりつけず私たちは
途中の喫茶店で一休みしました。
Iさんはコーヒーフロート、私はメロンソーダフロートを注文し、さて、取材開始です。



ーIさん、最近何読みました?


えっ、それを俺に聞く?
ほんとに言っていいの?


ーもちろんです。


『古道紀行 吉備路』(小山和・著 保育社 1992年)
どうだ、地味だろー。


ーうわっ、ほんとに地味ですね。枯れてますね。それは一体何の本ですか?


「吉備路」っていうのは昔の山陽道の一部分で、すごく歴史的に意義深い場所なの。
俺は前からそこに行ってみたいと思ってるんだけど、
この本はその吉備路を丹念に歩いて取材して紹介しているわけ。
例えば、前方後円墳の大きいのとか、神功皇后のさまざまな跡とか、南北朝の跡とか、
古代の鉄で後に備前焼きに発展するものとか、いろいろなものがこのあたりに残っていたり
このあたりで生まれたりしているの。
どうだ、すごいだろう。


ーはい。よくわからないけど、何だかすごいです。


つまり、「古代のロマン」っていうやつですな。
とってもタメになる本だったのだ。


ー古代のロマンですか。勉強になりました。ありがとうございました。


ーミニ企画第2回終わりー